主婦業、年俸1200万円=米社が「母の日」で試算

 
【主婦業、年俸1200万円=米社が「母の日」で試算】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080511-00000026-jij-soci
 
これはつまり、コックや保育士や運転手を軒並みバカにして、ひいては主婦の存在まで侮辱しているのだという解釈でよろしいか。
 
上記記事で紹介されているリサーチは、母の日を機にしたジョークを装っている。しかしその実は、家庭内の自分の扱いに不満を持っている主婦を対象にした、悪質で悪趣味なアジテーションだ。
 



 
赤の他人から報酬を貰う仕事に伴う特殊な責任。
その責任を背負うために必要な、莫大な投資。
時間外に行わなければならない研鑽。
職場への移動時間、その他諸々の計上できないコスト。
そういったもののことごとくは、それぞれの職業の金銭報酬に直接は反映されない。報酬の金額が、もともとそういったものを全部込みにするために、本来のものよりも高めに設定されているからだ。
 
くだんのリサーチでは、そういった全てを「最初からないもの」として扱っている。
 
「そんなものは一切必要がない」
「全て放り出してしまっても給金は変わらない」
そんな大前提を、読み手に気付かれないように、こっそりと紛れ込ませている。
 
これはつまり、例えば、コックを「ただ料理を作る人」としか見ていないということだ。
望まれた料理を、望まれたタイミングと望まれたクオリティで確実に作り上げ、客の前に出さなければならない。その時に厨房がどれだけ忙しい状況にあろうと関係ない。より多くの人に強く望まれるような料理を創り出すべく、研鑽と研究を怠らない者も多いだろう。そして万一その料理で食中毒でも起こした日には、客のみならず自分と店ともまとめて人生の危機に追いやられる。
そういったもの全てを背負って働いて、それに対する報酬を受け取っている人間に対して、「あんた料理作ってお金貰ってるだけでしょ?」と言っているのだ、このリサーチは。
 
むろん、主婦の仕事にも、責任はある。
努力もいる。
しかしそれは、ひとつの職種に特化し、そのエキスパートとしての肩書きを背負う者が持つ責任や努力とは、まったくの別種のものだ。
どちらが大変だとか尊いだとか、ましてや金額などという単純な価値に換算することなど、できるはずがない。というか、少しでも労働というものに対する敬意を持ち合わせているのならば、決してやってはいけない。
 

 
これがただのジョーク企画であれば、いい。
悪趣味でちっとも笑えないが、まだ許すことはできるだろう。
 
しかし、もしそれが狙いであるならば、誰もが「ありえねー」「むちゃくちゃな理屈だ」と笑い飛ばせるような書き方がされていなければならないはずだ。だというのに、
 

>>「ママの仕事の重大さを認識してもらうきっかけに」と期待し試算をまとめた。

 
上記記事には、こうある。
つまりこれは、「主婦の地位上昇」が目的で作られたリサーチなのだ。
そのために、各業種の労働者をバカにするような、極端に恣意的なデータを集めた。
そしてそれを、正しいデータなのだと信じ込ませるつもりでいる。
ご家庭のママさんたちに「自分のやっている仕事はこれだけの報酬を受け取ってしかるべきものなのだ」と思いこませようとしている。それがどれだけ失礼な誤解であるのかに、気付かせるつもりはまるでなく。
 
「こんなの信じる奴いないだろ」と言ってしまうのは容易いが、困ったことに人間というものには、信じたいものを信じてしまう習性がある。それに、Yahooニュースのこの記事は、ネットリテラシーに通じた巧者だけが読むようなものではない。それこそ純真にして単純な子供なり主婦なりが目にする可能性は充分にある。そして彼らが、記述にある狙い通りに「ママの仕事の重大さを認識」することにならないという保証はどこにもない。そんなバカなと思う人がいたら、googleでもなんでも使って調べてみるといい。世の中には色々な人がいるのだと思い知ることができるだろう。
 
そういうところまでひっくるめて、ふざけたニュースだと、声を大にして言いたい。